大判例

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札幌高等裁判所 昭和54年(行コ)3号 判決

札幌市中央区南一三条西一丁目

控訴人

西尾長平

右訴訟代理人弁護士

森越博史

藤原栄二

森越清彦

同市同区大通西一〇丁目

札幌第二合同庁舎

札幌南税務署長

被控訴人

大野光次

右指定代理人

辻井治

畑山昭信

畑中勇吉

松井一晃

右当事者間の所得税更正処分取消請求控訴事件につき、当裁判所は、昭和五六年一月二六日終結した口頭弁論に基づいて、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴審の訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者が求める裁判

一  控訴人

「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の昭和四四年分所得税について、(一)昭和四七年六月二九日付でした再更正処分のうち、分離長期譲渡所得につき金額金七〇九万三二二〇円、その税額につき金七〇万九三〇〇円を超える部分を及び(二)同日付でした過少申告加算税変更決定のうち、税額一八〇〇円を超える部分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決。

二  被控訴人

主文と同旨の判決。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の、

1  九枚目裏五行目に「価値」とあるのを「価額」と、

2  一〇枚目表四行目から五行目にわたつて「保有期間の増加益」とあるのを「保有期間中に生じた増加益の全額」と、

3  一〇枚目表末行に「移転」とあるのを「譲渡」と、

4  二一枚目表五行目(七〇番二一の土地の欄)の地目欄に「〃」とあるのを「宅地」と、

5  二一枚目裏一〇行目(七〇番九四の土地の欄)の地目欄に「〃」とあるのを「公衆用道路」と、

それぞれ改める。

二  被控訴人の主張

控訴人は、昭和二九年に本件土地の大部分について、登記原因を贈与として藤田シヅ(当時の姓は西尾)に対する所有権移転登記をしたが、シヅに贈与税が課せられることを知るや、控訴人、シヅ両名合意のうえ、右の所有権移転登記を、錯誤を原因として抹消し、その結果、昭和二九年分課税において、贈与税の課税を免れたものである。しかるに、本件各処分がなされるや、控訴人は、一旦みずから否定した昭和二九年にシヅに本件土地を贈与したということを主張するに至つた。このような控訴人の態度は、適正公平な租税負担の原則に反するのみでなく、課税法律関係における信義則に反するものというべきであつて、到底許されないものである。

第三証拠関係

証拠関係は、次に記載するほかは、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

甲第八ないし第一〇号証(いずれも写。)を提出。当審における証人田辺照雄の証言、控訴人の本人尋問の結果を援用。

二  被控訴人

甲第八、第九号証の各原本が存在し、右原本が真正に作成されたということは、いずれも知らない。甲第一〇号証の原本が存在し、右原本が真正に作成されたことは認める。

理由

一  当裁判所も、本件各処分は適法であつて、その各一部の取消を求める控訴人の本件各請求は、いずれも失当であると判断するものであり、その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の、

(一)  一四枚目表四行目に「あつたこと」とあるのを、「あつたか否か」と改める。

(二)  一四枚目裏四行目に「名義の」とあるのを、「名義に」と改める。

(三)  一五枚目表二行目に「第六号証」とある次に、「第七号証の一ないし五」を加入する。

(四)  一五枚目表三行目の「原告は」から一六枚目裏末行の「解される。」までの部分を、次のとおり改める。

「次の事実が認められる。

(一)  原告は、前記のとおり昭和二〇年一月二〇日に家督相続をし、本件土地(別紙物件目録記載の六六筆の土地に、右目録記載の順に1ないし66の番号を付し、以下、本件土地のうちの個々の土地を表示するには、右の番号によつて、「1の土地」のようにいう。)所有権を取得した後間もない頃から、当時既に多数の第三者に賃貸してあつた本件土地の賃料収入全部を、右賃料の徴収事務を担当させていた者から直接訴外シヅに交付させるようにし、訴外シヅに、これを家計費に充てさせていた。

(二)  昭和二三年頃、訴外シヅが原告との婚姻前から所有していた札幌市豊平区旭町二丁目所在の土地約三七〇〇坪位等が売却され、その売得金が原告に対する相続税、財産税等の支払資金の一部に充てられた。

(三)  原告は、訴外シヅと婚姻後も、他の女性と継続的関係を結んでいたので、訴外シヅとの間は円満でなく、昭和二八年頃から、原告と訴外シヅとは別居生活をするようになつた。

(四)  昭和二九年九月一〇日頃、原告と訴外シヅの間で、訴外シヅにその生活維持に必要な収入の途を確保させること、右(二)のとおりの事実があつたこと、右(三)のとおりの原告の行状について、原告は訴外シヅを慰藉しなければならないこと等を合わせ考えて、原告所有の本件土地(但し、当時は、1と21の土地、2と22の土地、3と23の土地、56と57の土地、59と63の土地は、それぞれ一筆の土地であつたもので、21、22、23、57、63の各土地はいずれも昭和四三年四月一五日に分筆されたものであり、11、15、16、17、19の各土地は、いずれも後に分筆された土地とともに一筆の土地の一部であつたものである。)を訴外シヅに贈与する旨の合意がなされ、これに基いて昭和二九年一一月二五日に本件土地のうち27、65、66の各土地を除くその余の土地(前記のとおり11、15、16、17、19の土地がそれぞれその一部であつた一筆の土地については、その一筆の土地。)について、同年九月一〇日贈与を登記原因とする、訴外シヅに対する所有権移転登記がなされた。しかし、右の贈与によつて、訴外シヅに対し相当高額の贈与税が課せられることが判つたことから、昭和三〇年三月二八日に錯誤を登記原因とする、右の訴外シヅに対する所有権移転登記の抹消登記がなされた。

(五)  昭和四三年六月一日、訴外シヅが依頼した渡辺敏郎弁護士が立合人となつて、原告と訴外シヅとの間で、原告所有の本件土地(但し、当時は、11、16、17、19の各土地は、いずれも後に分筆された土地とともに一筆の土地の一部であつたものである。)のほか札幌市豊平区豊平五条八丁目七〇番一五、同所同番三二、同所同番九三の土地を、訴外シヅに対し、原告死亡の時に効力が生じるものとして、贈与する旨の合意がなされ、その公正証書が作成された。これに基いて同月二二日、本件土地のうち11、27、65、66の各土地を除くその余の土地(前記のとおり11、16、17、19の土地がそれぞれその一部であつた一筆の土地については、その一筆の土地。)について、同年六月一日贈与予約を登記原因とし、訴外シヅを権利者とする所有権移転請求権仮登記がなされた。

(六)  原告が昭和四一年ないし昭和四四年の毎年三月に所轄税務署長に対して行つた、昭和四〇年ないし昭和四三年の各年分の所得税の確定申告では、本件土地の賃貸料収入は原告の資産所得に算入され、原告の世帯員としての訴外シヅの資産所得としては、東京都北区西ケ原所在の家屋の賃貸料収入のみであるとして、申告がなされている。

右のように認められ、右認定を妨げるに足りる証拠はない。

右認定事実によると、昭和二九年九月一〇日頃、原告と訴外シヅの間に、原告所有の本件土地を訴外シヅに贈与する契約が成立し、27、65、66の各土地を除くその余の土地については、その履行がなされたが、右贈与契約は、昭和三〇年三月二八日頃に合意解約された、と認めるのが相当である。右(五)認定の、昭和四三年六月一日に成立した本件土地ほか三筆の土地の死因贈与契約が、実際には、右契約の目的物とされた本件土地ほか三筆の土地の所有権を、直ちに訴外シヅに移転させる趣旨のものであつたことを認めるに足りる証拠はない。そして、他に、右(五)認定の死因贈与契約成立後前記の昭和四四年一二月一五日の即決和解成立までの間に、本件土地所有権が原告から訴外シヅに移転する原因事実があつたことについては、何も主張、証拠がない。してみると、昭和四四年一二月一五日の即決和解が成立するに至るまで、本件土地は原告の所有に属していたことになる。」

(五)  一七枚目表一三行目行頭の「三」を「4」に改める。

(六)  一七枚目裏末行から一八枚目表一行にわたつて「これに関して夫婦間に協議等が行われて」とあるのを、「当事者間の協議、その他の方法によつて」と改める。

(七)  一八枚目表三行目に「ことから」とあるのを、「ことになるから」と改める。

(八)  一八枚目表一〇行目の「その性質を」から一一行目の「財産分与とみるにせよ、」までの部分を、「それが、右即決和解の調書の和解条項の記載にかかわらず、慰藉料の支払に代えてなされたものではなく、財産分与としてなされたものであつたとしても、」と改める。

(九)  一八枚目裏一行目に「告の」とある次に「、」を加入する。

(一〇)  一八枚目裏三行目行頭の「四」を「三」に、七行目行頭の「五」を「四」に、それぞれ改める。

2  当時において新たに取調べた証拠によつても、右1(四)に記載の認定事実を擬すに足りないし、昭和四四年一二月一五日の即決和解が成立するまで、本件土地の所有権が控訴人に属していたとの判断を動かすに足りない。

二  よつて、控訴人の本件請求を全部棄却した原判決は相当であるから、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第三八四条により本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について同法第九五、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 輪湖公寛 裁判官 寺井忠 裁判官矢崎秀一は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 輪湖公寛)

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